奥井 美由紀さん

会社員からセラピストへ転身　人を癒すことが私の喜び

新生・salon猫丸とは

1970年生まれ、島根県浜田市出身。穏やかな雰囲気、優しい笑顔、柔らかな口調に自然と安心感を覚える。今年でセラピスト活動10年という節目を迎えた奥井美由紀さん。

長年培ってきた経験をもとに今後さらに事業展開を拡げようと、この4月にサロンを出雲市大津朝倉にある美容複合施設へ移転し「salon猫丸」として新たなスタートを切った。

これまでもリラクゼーションサロンとして、アロマトリートメント、推拿整体、ドライヘッドスパなどのボディケアから、統計学を用いた鑑定、気功やヒーリングなどのエネルギーワークといった幅広い手法を組み合わせて施術を提供してきた奥井さん。

ここでは以前からのテーマである心身の健康に加え美容にも着目。もともと持っていた理容師の資格と技術も活かし、新たに美顔シェービングをメニューに加えたほか、温活やデトックスメニューも取り入れて、より多面的なアプローチができるサロンへとパワーアップさせた。

また、気功をベースとしたセルフケア教室も開催。今後は今まで以上に内容の充実を図りながら総合的に健康をサポートできるサロンを目指しているという。

セラピストに目覚めたきっかけ

奥井さんがリラクゼーションの世界に興味を持ち始めたのは30代半ば。当時、建設コンサルタント会社や設備関係の図面作成などを行っていたそう。作業は主にパソコン業務で正確さと精密さが求められ細かな数字と向き合う日々。残業で徹夜になることもあったとか。そんな日々を過ごすうちに心労も重なり自律神経の乱れから不定愁訴に悩まされるように。不定愁訴とは、原因ははっきりしないが何となく体調が優れない状態で、身体的な不調から精神的な不調まで様々。病院で診察や検査を受けても異常が見つからず、これといった治療もできず途方に暮れたという。

そんな時に出会ったのがアロマ精油で、香が心身にもたらす素晴らしい効果を初めて体感できた。それから漢方や太極拳にも興味を持ち、生活に取り入れていくうちに体調が回復していったという。

転機が訪れたのは40代半ば、子育てが一段落し今後の人生について考えるようになった。「娘が社会人になって手が離れ、ある時ふと巣立って行くことを想像したら急に不安になったんです。このままでは空の巣症候群になってしまう！そこで、自分の存在意義を見つけるために何か学ぼうと決意しました。」と奥井さん。

これをきっかけに働き方を見直し、直接人と関われる仕事につきたいと考え、あの時救われた「リラクゼーション」で今度は自分が同じように悩む人を救えたらとセラピストへの道を歩み始めたのだ。

セラピスト奥井美由紀　誕生までの軌跡

アロマトリートメントから始まり、整体を習い始めると面白さに目覚めて学びへの意欲が高まった。さらにエネルギーワークや占いにまで興味は広がり、次第に県内外の各地で開催されるイベントへ出店するようになったそう。

「今まで知らなかった世界、全てが新鮮でした。たくさんの人たちと交流が広がって、とにかく楽しかったですね。」と振り返る。当時はまだ平日は会社員、週末はセラピストという二足のわらじスタイル。全く違う職種の切り替えがリフレッシュにもなっていたという。

いつの間にかリピーターも増え、「気持ち良かった」「スッキリした」と喜ばれる反応が嬉しくて、さらに欲が出たという奥井さん。「一過性の癒しではなく心身の改善を継続的にサポートしていきたい。」と2019年、ついに自宅サロンを開始した。週末のみだったがSNSや口コミで評判が広がり、出雲だけでなく遠方からもお客様が訪れるようになったそう。

しかし、望んだ道とはいえダブルワークの多忙な日々が続き再び体調を崩す。そして、この頃からセラピストとしての方向性に違和感を持つようになったという。

「出来る限り望みを叶えてあげたいと、ついつい献身的に寄り添いすぎてしまって。気づいたら自分の方がボロボロになっていました。」と奥井さん。同時に当時勤めていた会社では管理職にあり、解決しないといけないことが山積みで自分のことに目を向けることもできなかった。このままではダメだと思い全てを一旦ストップ。また、同時期に身近な人が病で他界、深くショックを受けその後も体調不良が続いたため、まずは自分の健康を一番に考えようと2022年4月に会社を退職した。

しかし、なぜかここで終わらないのが奥井さんなのだ。人生に絶望しながらもセラピストへの探究心が薄れることはなかった。今度は気功に出会い指導者になる道を目指したのだ。そして、2023年セラピスト活動を再開、軌道修正しながら常に新たな道を模索し続けた結果、今日に至る。

負けず嫌いな性格だといい、「何度転んでもタダでは起きませんよ♪」とインタビュー中に見せた笑顔が、どんな逆境にも屈しない逞しさを証明しているようだった。最初の穏やかなイメージからは想像もつかないギャップに驚く。

気功を通して自分を見つめ直すことができたといい、今まで何かに追われ生き急いできたことを反省。これまでの経験は全て必要なことだったと前向きに捉えるようになったそう。

そして、この学びから今では無理をしすぎない自己愛を意識しお客様のケアに取り組んでいる。「まずは自分を大切にして欲しいことや、選択肢はたくさんあり可能性は広がっていることを伝えるよう心がけています。結局歩くのは自分、だから私は少しでも前向きになれるよう背中を押してあげる存在でありたいですね。」と語ってくれた。

弱さを知っているからこそ歩みと成長を止めない奥井さんは、実にバイタリティ豊かで人間味溢れるセラピストなのだ。

心と身体の気が巡るリラクゼーションサロン

実は疲れている人、元気のない人というのは共通して「気が滞っていたり不足している」状態なのだと奥井さんはいう。中医学で「気」とは、身体のあらゆるものを動かす生命エネルギーと言われ、普段から何気なく使う「元気」の語源はここからきているそう。

そこで最も大事なのが「気を巡らせる、充填する」こと。推拿整体では滞っている経路やツボを刺激する。血行が促進され気の流れがスムーズになることで心身が整い、自然治癒力も向上するというのだが、気が滞ったり不足する背景には本人も気づかない要因が複雑に合わさっていることも多いのだとか。

そのため奥井さんは、丁寧に原因を探り様々な手法で不調へアプローチ、その人に適した施術を組み合わせながら快方へ向かうよう導くんだそう。

また、非日常の癒しを味わうことで無意識に閃きが起こりやすくなるといい、来た時と帰る時では別人のように表情が明るく変わるという。

「自分らしさを取り戻せるよう、本人の意思を尊重した施術や声掛けを大切にしています。心が軽くなってスッキリした笑顔を見ることが一番の喜びで、自分が学んできたことは間違いじゃなかったとやりがいを感じる瞬間です！」と声を弾ませる。

そして、物事を考える時にも大切にしていることがあるという。それは「自分が楽しいと思える方を選択すること」だ。頭ではなく「肚で考える」といい、要はワクワクするかどうか、雑念や固定概念を優先するのではなく感覚で決めることが大事なのだという。

こう考えるようになってから、自然とお客様の反応も変わったというから驚きだ。今まで一方通行に感じていたが、今は自分にも良い影響が返ってくることを実感しているという。これこそが奥井さんが違和感の中で求めていた答えだ。良い変化の循環、お客様も自分も良い気が巡ることで一緒に元気になりたいと、双方が幸せであることを願っている。

猫の自由な生き方に憧れ、セラピストの在り方を学ぶ

salon猫丸のロゴは古代中国・漢方の思想「陰陽」をモチーフにしており、ここにも「気を巡らす」という意味が込められているという。特徴的なのは白と黒の猫たち。サロン名にも「猫」を入れることで「猫好きのセラピスト」を表したかったそうだ。

昔から猫が大好きで現在保護猫カフェから引き取った2匹の愛猫と暮らしている。サロンには愛猫の写真やコレクションの猫グッズを並べる猫愛に溢れた奥井さん。猫の魅力は愛らしい姿だけじゃないと語る。

「気づくとそばにいてくれる癒しの存在ですが、猫はいつだって自由きまま。寄り添うというより、静かに俯瞰して見守ってくれている感じが良くて。今までずっと良い人でいなきゃと、他人軸で生きてきた私は心のどこかでそんな猫の自由な生き方に憧れていたんだと思います。」猫の生き方は、まるで自分軸の象徴のようで、セラピストの在り方として大事なことを気づかせてくれたという。

これからのビジョンや夢は？

そんな奥井さんが思い描く「これから」とは？

「いつか動物と人が一緒に暮らし、互いに支え合ってハッピーになれるシェアハウスをつくりたい。」と奥井さん。サロンに訪れる人たちは気力がなく、人生に失望し自分の夢や可能性を見失っていることも多い。

そこで、そんな人たちのために自分の得意なことを活かして活動できる場、安心して暮らし元気になれる場づくりをしたいと考えるようになったという。

また、同時に動物保護の活動にも力を入れていきたいといい、住人は保護した動物たちの世話を通じ触れ合うことで癒されるアニマルセラピーの効果も得られるのではと期待している。

壮大な野望だが、ここまで自分の道を切り拓き進んできた奥井さんのことだ。時間はかかろうとも、いつか達成するに違いない。

これから先もずっと奥井さんは誰かの心と体を癒していくセラピストで在り続けるだろう。ハッピーの循環は止まることなく、その輪をさらに大きく広げていく。人と動物の明るい未来に向かって歩む奥井さんに心からエールを送りたい。

思いもよらないことが起こるのが人生。ふと疲れて立ち止まりたくなったらsalon猫丸の戸を叩いてみるといい。そこは明るく柔らかな光に満ちたサロン、ようこそようこそと笑顔の奥井さんが出迎えて、きっとあなたの心を軽くしてくれるはずだから。

(2024年4月 取材)
執筆：みんなの広報｜テトキクロス