田邊 裕彦
田邊裕彦 地域とどぶろく、人が大好きな男61才
邑智郡美郷町都賀本郷、坂道を登っていくとその古民家があった。
坂道には、立派な石垣、白漆喰に赤い屋根、白壁に黒い梁がお見事、立派な建物が見えた。
1年前から、知人の大工さんと3人で改修を初めて、今年4月1日オープンしたばかり。
玄関には、大きな一枚板に「三國屋」と掲げてある。
三國屋は、今は途絶えた田邊本家の屋号だそうだ。
田邊さんは、大田高校を卒業し神奈川の大学で獣医学を学び、獣医師となって、県職員。
県職員時代は、公衆衛生、畜産や農林振興と、県内の現場をまわって歩いた。
実際、過疎化が進行し、農畜産業や林業は担い手の高齢化、継承者不足の状況にある。
地元の都賀本郷も同様、県職員を退職後、地元に帰った。
何とか地域活性化に役立ちたい。
どぶろくの酒蔵、農家民泊、体験農場などを立ち上げ、スタートを切ったばかり、これからなのだ。
田邊さん、白髪のとってもダンデイーな男性、笑顔が素敵。
知識が豊富で、部屋の案内中も少し曲がっている座布団をすっと直してゆく。
コーヒーを入れる手つきも、ほんとにきれいだった。
農家民泊 三國屋
坂道に立っている蔵のある古民家、築90年という。
入るとそこは広い土間、土が固められこれまでの歴史を語るように、でこぼこしている。
土間から見える部屋は、3間続きの部屋、奥座敷の床の間の脇にある書院には、素晴らしい組子細工が施され、お見事。今はこれほどの細工ができる職人さんはすくないことだろう。
床の間の框などには黒柿の木が使ってあり、まあーすごいです。
天井や建具は昔のまま、手入れをしてそのまま使ってある。
壁は左官さんが白漆喰を塗りなおし、黒い柱や梁を際立たせる。
台所は土間に最新設備のキッチンの他、昔懐かしい竈も設置、トイレはウオシュレット、そして、中座敷には囲炉裏がきってあり、何とも居心地がいいものだ。
部屋を案内していただいた後、コーヒーと地元のお饅頭をいただく、コーヒーカップとして出してくださったのが、赤絵の伊万里焼、古いものでとってもきれいだった。
陶器なども、古いものが好きだそうで、蔵の中からより出してきたとのこと。
また、地元の焼き物も使っていて、道具も食材もなるべく地元のものを使いたいとのことだ。
南向きの部屋、縁側からは水が張られた田んぼ、赤瓦の民家の屋根、その向こうには芽吹いたばかりのしろっぽい新緑の山、まだ山桜が咲いていて、藤の花とつつじ、春から初夏にかけて、美しい風景が広がる。
ふと、100年前も同じ風景だったかしらと思った。
濁酒蔵元 邑川
県職員のころ、酒米振興の関連で、どぶろく特区による地域振興に関わったことがある。
地元に目を向けると、何とか地域活性化をと考えるようになった。
美郷町は既にどぶろく特区の認定を受けており、今年1月酒類製造免許を取得した。
家の前には、すでに水が張られた田んぼが、ここで きぬむすめ を育てどぶろくを作る。
令和元年5月1日発売予定。
きぬむすめ、国産稗を原料として造った2種類。
ラベルの案を少し見せてもらった。
ブルーと淡いピンクがかったベージュの2種類、どちらも、邑川(おおせん)の酒銘と白い丸の中に黄色の弓月が描かれている。
江の川の水面にうつる三日月ですとの説明。
なるほどね。
どぶろくは、醗酵している。
その度合いにより、最初はフルーテイーでさわやか、醗酵が進むとアルコール度数があがって、しっかりしたものに毎日変化していく。
どの状態で、出荷するのか、蔵元の判断だ。
今の状態で、少し味見。さわやかでフルーテイー。
後味もずっとフルーテイーな感じが残る。
おいしい、でも飲みやすいから、飲みすぎになりそうなさわやかさだった。
5月1日発売、既に予約がはいっているらしい。ゆくゆくはネットでも販売するそうですよ。
稗のどぶろくは、珍しいものらしく、製造量も少ないので、出回ることは少ないかもしれない。
民泊限定で提供されるかもしれないですね。
水の張られた田んぼ、5月中旬には若者や地域の皆さんをつどって、みんなで田植え体験会、もちろん手植えだ。
田植えがあれば、稲刈りもあるだろう、農業体験のイベントだ。
若者に集ってもらい、楽しんで美郷はいいところだなあとリピーターになってほしいと思っている。
古民家民泊の活動
4月以来、県内、神戸、広島、神奈川から数組の民泊客があった。皆さん、紹介やインターネットを見て来られた。
お客様は、一日一組。
一泊素泊まり5000円(税別)、食事は2食で3000円(税別)から。
食事は料理体験(共同調理)ということで提供、これも体験型民泊の一つ。
田舎の生活を、堪能できそうだ。
伺った日は、お昼に客が来るとのこと、昼頃に8人ほどの保育園の先生たち。
懇親会だそうで、お弁当持参で数台の車でやってきた。
田邊さんは、囲炉裏に火をいれ、裏山で採れたタケノコの味噌汁を料理体験として提供していた。
都賀本郷には、飲食店はほとんどなく、集まって飲食する場所も提供している。
これまでも、老人会の集まり、法事と利用がある。
夏には、同窓会の予約がはいっているという。
地元の人たちにとっても、うれしい場のようだ。
例えば、これまでは集会所などを利用するわけだが、それでは味気ないことこの上ない。
地域だけでも、様々な利用があるものだなとわかった。
これから、民泊も口コミや紹介、観光協会のホームページなどで、少しずつ広がっていくことだろう。
これからの時代、体験型の農家民泊、インバウンドのお客様、きっと喜ばれることと思う。
県内の留学生たちが体験したそうだ。
みんな、興味津々、喜んでいたそうだ。そこからの口コミ期待したいですね。
お昼のまかない飯、中庭で山菜の天ぷら、よもぎ、ゆきのした、さんしょ、タラの芽、うど、揚げたてを塩でいただく。炭火でヤマメも焼いてもらった。
鮎より少し野性的な味、皮はパリ、身はふっくら、おいしかったです。
おにぎりは、香茸の刻み込んだもの、初めて食べた。すごい香り。
干した香茸を見せてもらった。形はマイタケのようだが、黒くてすごく薫る。まぼろしのキノコと言われている。ごちそうになりました。
揚げたて天ぷらは、保育園の先生たちにもお裾分けしてました。
中庭は、母屋と納屋に囲まれ、風が当たらず調理作業にはぴったり。納屋の裏側には山があり、今はタケノコが採れる。しかし、今年はイノシシがたべて、少ないそうだ。
イノシシの罠も仕掛けてあった。昨年末から年明けにかけて7頭捕獲されたそうだ。
裏庭には、ヤギさんが2頭、長いひげと角のお姉さんヤギと4か月なる小さなヤギ。小さなヤギには角が生えかけている。見ていると癒されます。
おとなしくて、かわいいものです。そのうえ、雑草を食べて除草してくれている。
田邊さん、毎日どぶろくの管理、三國屋の管理・運営とイキイキと楽しそうだ。
いつもは一人だが、連休で帰ってきていた息子さんが手伝っていた。
いまは、獣医を目指して勉強している。
お手伝い、えらいわね。と声をかけると、やってみると結構楽しいですよ。
地域活性化なんて、かたい言葉ですが、自分も楽しく、地域ややってくる人たちに楽しんでもらう。こうした楽しい田舎づくりが定住や産業振興につながる、そういうことだったのですね。
田邊さんと話していると、とっても元気をもらえます。
この時期、美郷町は新緑が素晴らしいです。
みなさん、ぜひ訪れてみてください。
(2019年3月 取材)