黒松慶樹
介護職の可能性を伝えたい
介護施設 えるだー
小規模多機能型居宅介護 ちょっと長い名前ですが、ご存知ですか。
通い(デイサービス)を中心に訪問(ホームヘルプサービス)泊まり(ショートステイ)を一つの事業所で組み合わせて利用できる介護保険サービスです。
介護度に応じて定額で利用でき、一つの事業所でサービスの利用が出来るので、常になじみの職員さんが担当してくれるので、安心ですね。
2006年、小規模多機能型居宅介護施設開設が始まった。
有限会社えるだーは、黒松さんのお母さんが、2008年12月に立ち上げた。
介護施設は、各自治体の介護事業計画に基づき、どこにどんな施設を作るのか、計画される。
そして、事業所を公募する。
申請許可を得て開設することができるのだ。
それまで、介護施設で勤務していたお母さんは、自ら立ち上げることとなった。
50代女性、一人での立ち上げ運営は大変なご苦労があったことだろう。
何となく、社会福祉法人がいつでもどこにでも、開設できるような気がしていたが、そんなものではなかった。
黒松慶樹さん
両親ともに大変忙しく鍵っ子で育った。
医療と介護のお仕事、まして母の事業を引き継ぐことは考えたこともなかった。
大学は、法学部だそうだ。
大学卒業後、公益財団法人で勤務していた2015年結婚のタイミングもあり、母にえるだーに就職したいと伝えると、母はやめときなさいと言った。
介護は3Kと言われる仕事、また当時は定員25名が埋まらず、経営的にも苦しい状態にあった。
昭和57年10月生まれ。
現在、小規模多機能型居宅介護セカンド・サロンえるだーで管理者、介護福祉士、出雲地域介護保険サービス事業者連絡会青年部会長、認知症サポーターキャラバン・メイト。
これだけの肩書、出雲市介護事業をけん引する若きリーダー。
穏やかな語り口だが、うちには熱いものがあふれる。
えるだーに入って、現場を見たときに何か違うと感じたそうだ。
利用者さんが、姿勢が辛くて椅子から立ち上がろうとしたとき、『どこへ行くの、危ないからちゃんとすわってて』
職員の言葉だった。
職員の都合で、出た言葉だった。
『これが介護か。』
『ただ利用者さんの自由を奪って怪我をしないようにしているだけじゃないか。』
『利用者さんが主体でそこに寄り添うことが介護職の役割ではないのか。』
黒松さんは答え合わせのために、県内外の多くの施設を見学して歩いた。
自分の考えは間違っていない。
『自分がされて嫌なことは、人にはしてはいけない』
えるだーの介護を変えたいと強く思った。
黒松さんのもう一つの顔。大学を卒業して出雲に戻った黒松さんが結成した出雲交響吹奏楽団-縁-。現在は業務に専念するため他の方に運営を譲ったが、今でも演奏には時々参加をしている。『音楽も僕の生活の一部です』。
えるだーの改革
黒松さんがえるだーに入って、職員さんたちからは、反発があった。
自分がされて嫌なことは人にしてはいけない、言葉で伝え続けた。
しかし、これまでいた職員さんたちはほとんどがやめていった。
僕自身も周りから見れば説得力に欠けるところがありました。
新しく入った職員さんたちと、そして自分の思いを共感してくれる大切な人たちと出会った。
自分は介護職としての経験は浅いが、施設の在り方や経営を中心に考えることができる環境が整ってきた。
えるだーでは、拘束せず、安心して自由に笑顔で過ごせる介護を、また職員はやりがいを感じる施設を目指している。
排泄もなるべく自分で出来るように、食事は多少遅くなったとしても自分の食べ方で自分のペースで食べる。
とってもごく普通のこと、料理や裁縫、大工仕事など得意なことはなるべくやってもらう。
「高齢者はそこにいるだけで、必要な人なんです」「過介助は人を殺します」
黒松さんの言葉は心に響きました。
職員さんには、日々のケアでえるだーのやり方をつたえ、また言葉でも伝えるようにしている。
取材時、利用者さんはドライブに出かけるところ、毎日外出するそうだ。
『ずっと、建物の中にいてもつまらないでしょ。』
ほんとに、普通に生活している感じで過ごしてもらうと、利用者さんにも笑顔が増えたという。
「これでいいわ」から「これがいいわ」に変えていく。
出雲地域介護保険サービス事業者連絡会青年部会長
これまで8部会あったが、9部会めに青年部が立ち上がり会長に就任した。
介護の若手職員はあまり研修会にも出席しない。
出雲の介護職員は、概ねどこも横並びの考え方。
若い介護職員の横のつながりを作り、若いからこその新しい視点などを持ってほしいと青年部を引っ張っている。
【外部リンク】出雲の介護職魅力化プロジェクトfacebookページ
【外部リンク】出雲市介護職魅力化プロジェクト『IZUMO KAIGO LIVE!』
今、世の中で言われている働き方改革、介護の現場でもいろいろあるようだ。
黒松さんは、現場の自分たちが声を上げていかないといけないという。
介護職は、社会保障制度、利用者さんの体・心のケア、飲むお薬の知識、人体構造、そして一人一人違う認知症の症状について、知識と経験をもっていないといけない専門性が必要な職業なのだ。
しかし、社会的にみれば、立場も賃金も低い状態にある。
地位向上のためにも、自分たちから行動し声を上げないと変わっていかないと黒松さんは言う。
例えば認知症、様々な症状があり、一人一人違う。
原因がいまだはっきりしない認知症、薬を処方され飲んで症状が悪化したときや副作用が強く出た時などには医療と連携をして薬を変えてもらったり、時には提案をする。
身近でいつも見ている介護職だからできることも多くある。
医師と介護職が共同すること、自立支援のケアを行えば、認知症の進行を遅らせたり症状の緩和をすることはできる。
これからの時代、AI・ロボットが活躍する時代がすぐにやってくる。
介護の世界はどんな風に変わっていくのか、聞いてみた。
例えばベッドがロボットになるものもある。
ベッドが半分に分かれ、それが車いすになる。
戻って来るとまたベッドになる、そんな福祉用具もある。
他にもロボットやセンサーを使って利用者の見守りや、レクリエーションをするロボットもある。
ケアマネージャーが作る介護プランもAIがやっていく時代がすぐにやってくる。
某県では既に仕様段階となっている膨大な情報を読み込んだAIが最適な介護プランを提供する。
AI・ロボットと介護職員が共生する時代がやってくるのだろう。
人として介護職員の役割はどこに。
介護対象者は高齢者が多い、自分のことをきちんと言葉で伝えることができにくい方も多い。
介護対象者をきちんと見ること、そして気づくこと、そして傾聴すること、人間を相手にした時にケアに人の心を入れること。
これがロボットではなく、人にしかできないことという。
出雲の介護を変える。
黒松さんのこの思いは、強く熱いものだった。
出雲地域の介護職員の横のつながりも少しずつ広がっている。
黒松さんの強いリーダーシップ、向かい風も強いことだろうが、皆さんを引っ張っていってください。
(2019年3月 取材)
出雲地域介護保険サービス事業者連絡会青年部会長の仲間たちと。
若手介護士を対象にした研修交流会による介護士同士の繋がりを作ったり、VR認知症体験等のイベント開催を通じて介護職の今と未来の可能性を伝えている。介護職の魅力を伝える活動に終わりはない。
有限会社えるだーは、介護の必要な方の「介護が必要になっても自宅で暮らしたい」という思いを受けて平成16年にヘルパーステーションとしてスタートし、重度や重症の方も利用されています。
平成18年には『通い』『訪問』『泊まり』を組み合わせて一つの施設で利用できる小規模多機能型居宅介護セカンド・サロンえるだーをオープンしました。
「ご利用者1人ひとりの人格を尊重し、住み慣れた地域での生活を継続できるように、地域住民との交流や地域活動への参加を図りつつ、地域での暮らしを支援する」ことを事業所理念に掲げています。
所在地: | 〒693-0008 島根県出雲市駅南町3丁目12番地1 |
---|---|
TEL: | 0853-24-9688 |
URL: | https://www.elder-izumo.jp/ |